「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第143話

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最終章 強さなんて意味ないよ編
<魔王の黒い篭手>



「しかしそうですか。そんな魔法が使われては戦争の継続なんてできませんよね」

「ええ。生み出された黒い魔物たちはまさに災厄としか言いようのないモノたちでしたよ。でもそれは王国にとっての脅威であり、恐怖でした」

 そう言ったヨアキムさんは、一度小さく震える。

「でもその後、あの戦場にいた帝国の兵たちも震え上がる事になったのです」

 そしてその後に起こった事を私に語ってくれたんだ。
 アインズ・ウール・ゴウン辺境候が黒い篭手が着けた方の腕を戦場に向けると、倒れ付した敵兵たちからその腕に向かって無数の青白い小さな玉のようなものが光の帯を引いて集まり、その篭手に吸い込まれていったのだと。

「あれは・・・死んでいった王国兵士たちの魂だったのではないでしょうか。10万を超えるそれらが篭手に吸い込まれる光景は幻想的であり、また自分の魂も一緒に吸い込まれてしまうのではないかと言う恐怖を呼び起こす光景でもありました」

 黒い篭手に吸い込まれる魂? そんなものを集めるマジックアイテムってあったかしら?
 と言うか、魂を集めて何かをするなんて事自体、ユグドラシルには無かったのよね。
 なら集めていたのは魂じゃないって事になるんだけど・・・じゃあそれはなんだったのかって話よね。

 生き物を殺す事によって得られるもの、それをゲーム的に考えると導き出される答えは一つしかない。
 経験値だ。

「ならもしかして、その篭手って」

「は? アルフィン様、今なんと」

「なんでもないわ。今話に出てきた集められたものが何かを考えていたら口を付いて出てしまったの。しかし魂を集めると言えば悪魔だけど、辺境候閣下は皇帝陛下が友人としてバハルス帝国に、それも新たな爵位を作って貴族として招いたのでしょ? ならその正体が悪魔である筈が無いわよね。ならばそれは魂ではなかったのではないかしら」

 これが経験値イコール魂と言うのであれば悪魔でなくても集めるだろうけど、倒したキャラクターを蘇生させても得られた経験値が減らない所を見るとそれは否定されるのよね。
 それでさっきの話の戻るけど、ユグドラシルプレイヤーが敵を倒して手に入るものは経験値とドロップアイテム。
 この場合、死体はそのままそこにあるんだからドロップアイテムと言う可能性は無いわよね。
 ならばその青白い玉は経験値と考えて間違いないだろう。

 でも私の知っているアインズ・ウール・ゴウンに所属しているプレイヤーがカンストまで経験値をためていないなんて事はちょっと考えられないのよね。
 ならば何万人倒したところで経験値はそれ以上得られないはずなんだ。

 でも、その経験値を溜めておけるマジックアイテムがあったとしたら? そう考えた私は、一つのワールドアイテムを思い出す。
 そうか、《強欲と無欲》ね。

 強力なマジックアイテムの使用や一部の超位魔法には経験値を消費するものがあるし、死んで蘇生された場合も経験値は失われる。
 それだけに余剰経験値を溜めておけるマジックアイテムがあればと、戦闘系ギルドの人たちはみんな考えるの。
 で、そんな話になると毎回出てきたのがこのワールドアイテムだ。

 この《強欲と無欲》は黒い篭手《強欲》で余剰経験値を吸収し、経験値が必要な行為を行う時には白い篭手《無欲》からその経験値を出して使う事ができるって言う、ユグドラシルプレイヤーなら誰もが欲しがるワールドアイテムなんだ。
 そっか、あれってアインズ・ウール・ゴウンが所持してたのね。

「なるほど。ではアルフィン様には、何か思い当たる事でもおありなのですか?」

「ごめんなさい。魂ではないと仮定した場合、それはなんなのかと考えてみたのですが・・・。でも残念ながら確信には至らない程度の事しか思いつかなかったわ」

「そうですか」

 流石にゲーム的に考えたら経験値を集めてたとしか考えられないなんて言えないものね。
 だから私はこう誤魔化すしかなかったのよ。

「しかしあれが魂ではなかったとすると、帝国の騎士たちの呟いた言葉を辺境候閣下はどう受け取ったのでしょうか?」

「騎士たちの言葉? 帝国の騎士たちはなんと言っていたの?」

「私と同じようにあの光景を見て辺境候閣下が魂を集めていると感じた者たちが、誰からともなく言い出したのです。魔王だと」

 魔王か、そりゃそう思うわよね。
 大量虐殺魔法を使うわ、その殺した兵士たちから魂を奪うわ、そんな存在を見たら誰だって悪魔か魔王だって思うもの。
 でも流石に人が苦しむのを喜びに感じると言われている悪魔が王国兵士に苦しみを一切与えず一瞬で殺したりはしないだろうから、魔王の方だって考えてもおかしくは無いわね。

「なるほど、魔王か。騎士たちがそう呟いてしまうほど、その光景は怖かったのでしょうね」

「ええ。吸い込まれる光の玉があまりに多く、かなりの時間吸い取っていましたからね。あれが一瞬ですんでいればまた違ったのかもしれませんが、魔王と言う呟きが後方にいた俺のところにまで届くほど長く吸い込んでいたのですから、その間はみんな震え上がってましたよ」

 まぁ10万以上の経験値の玉ですもの、いくらワールドアイテムだと言っても短時間ではすまないでしょうね。
 そして吸い込まれる魂を間近で見せられる兵士たち。
 さぞ怖かったでしょう。

 魔王様、我々は味方ですから間違えて一緒に魂を吸い込まないで下さいなんて考えてた人も居たんじゃないかな?

「そしてその青白い玉を全て吸い込んだ後、辺境候閣下は両手を広げ、こう言ったのです」

 おっ、まだ何かあるのね。

 一体何を言ったのかと思ってヨアキムさんの次の言葉を待った私は、それを聞いて唖然とする事になった。

「喝采せよと。我が強大なる、至高なる力の行使に対し、喝采を送れと言ったんですよ。あの虐殺行為に喝采を送れと」

「まぁ」

 流石にこれは予想してなかったわ。
 でも、これで一つの仮説が立つわよね。

 もしかしてこのアインズ・ウール・ゴウンと言う人物、未だにゲームの中にいるような感覚なんじゃ無いかしら。

 いや、流石にこれが現実だと解っているとは思うわよ。
 でも、それが受け入れられないんじゃないのかしら。

 私はいい、性別は逆転したけどちゃんと人間の姿でこの世界に存在しているのだから。
 でも異形種の姿でこの世界に転移したとしたらどうだったろう? その辛い現実を受け入れられないんじゃないかしら。
 それならば現実逃避をして、これはゲームの延長だと思い込もうとしてもおかしくないと思う。

 そしてもう一つ考えられるのは今の、人ではなくなってしまった自分の体に精神が引っ張られているのではないかと言う事。
 私だって前にシャイナ達に指摘されたもの、女の子化してるってね。
 ならば異形種の体で転移して、その姿で長い間そこにいる事によって精神が異形種寄りになっているのかもしれないわ。

 それならばさっきの喝采せよも説明が付くもの。

 ゲームの中で超位魔法《イア・シュブニグラス/黒き豊穣への貢》はその派手さから使うと盛り上がったって話だし、ゲームの頃の気分でいるのであればポーズをとって喝采しろなんて言ってしまってもおかしくないかも。
 まぁそれでも普通は実際に人を大量に殺す事になるんだから、少しは躊躇すると思うわよ。
 でも精神が異形種の体に引っ張られてるとしたら? そこに罪悪感は殆ど生まれず、ただゲームの時同様にみんなに賞賛されると考えてもおかしくは無いんじゃないかな。

 そこまで考えて、私はある一文を思い出した。

「人を一人殺したら人殺しだが、数千人殺せば英雄になる、か」

「えっ?」

「これは私の知っている古い言葉。人を殺せば殺人者のはずなのに、戦争で数千人を殺してもそうは呼ばれず逆に英雄扱いされる。辺境候閣下はこんな気持ちだったんじゃないかなって思ってね」

「戦争で数千人を殺せば英雄。確かにそうですね。ならば辺境候閣下の行いは、確かに英雄と呼ばれてもおかしく無いでしょう」

「ええ。ただ、それを目にした人たちには受け入れられ無い事でしょうけど」

 本人は英雄のつもり。
 でも敵兵とは言え多くの人々を一方的に虐殺したのには変わりなく、その様子を見て英雄だと考える者は殆どいないだろう。
 それが成立するのは実際には人が死んでいないゲームの中や、実際に人が死んだとしてもそれはお互いが殺しあう戦場でのことであり、祖国を守る為に死力を尽くした人たちだからこそ、そう呼ばれるのだ。
 ただ闇雲に人を殺してもそれが賞賛される事はけしてないし、そのような行動をすれば回りは敵兵の姿を自分に重ね合わせて恐怖するだろう。

「これは私の考えであって、事実とは違うかもしれませんか・・・。辺境候閣下は、今回この魔法を使う事によって自分が味方する軍に1人の犠牲者も出なかった事を誇っているのではないでしょうか」

「誇る、ですか?」

「ええ。戦争である以上、ぶつかり合えば両軍とも多少なりとも犠牲者は出ます。しかし今回、バハルス帝国側には1人の犠牲者も、それどころか怪我人さえ出ていませんよね。閣下の中ではそれが最良であり、今回の魔法を使った事を賞賛されると思ったのではないでしょうか」

「なるほど、だからこその喝采せよ! ですか」

 アインズ・ウール・ゴウンを名乗るプレイヤー、彼の周りには今回の行動が間違っていると指摘してくれる人はいるのだろうか? もしかして一緒に転移したプレイヤーたちも異形種だから、同じようにその体に精神が引っ張られてしまっているのではないだろうか?

「エル=ニクス陛下のご友人になり、バハルス帝国の貴族になったと言うのですから、本当に魔王と言う訳では無いと思います。なぜなら、本当に魔王ならば人である陛下と友誼を結ぶ事も無ければ人の国と共に歩もうなどとも思わないでしょうからね」

「ではアルフィン様は、辺境候閣下が人であると仰るのですか?」

「それは解りません。ですが」

 私は一泊置いてこう答える。

「少なくとも人と話し合い、人と分かり合える存在ではあると思いますよ」

 本当にそうであってほしいと言う願いをこめて。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 やっぱり時間が無かったのでちょっと短いです。
 本当ならもうちょっと先まで書きたかったのですが、中途半端なところで終わるよりはこれでよかったんじゃないでしょうか。

 今回の内容ですが、真実とはまったく違うし、ここまで間違った見方をするはずが無いと考える方もいると思います。
 でも読者と違って主人公は神目線を持っていません。
 また前にも本編で書いた通り、自分の精神が本当に女性に変質してしまっていると言う事に気付かず、ただ単に女性の体に精神が引っ張られていると思っているんですよね。
 だからアインズ様の心がアンデッドに変質しており、人であった頃の残滓だけで人っぽく行動しているなんて想像もしていません。
 結果、こんな結論を出していると言うわけです。

 さて、実は来週も日曜日に予定があります。
 ただ、今週のように月曜日にも予定があるわけでは無いので、早ければ今週のように土曜日、もしそれが難しいようなら月曜日に更新するのでよろしくお願いします。


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